ピルから見える日本
ピルとのつきあい方
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当サイト主宰者rurukoの評論です。
ピルをめぐる日本と世界の乖離情況について考えます。
40年の間、日本は中用量避妊薬を中用量ピルと称して避妊効能を認めない特殊な国でした。
そして今また、避妊効能のない低用量ピルを認可する特殊な国になろうとしています。
ピルをめぐる日本の特殊性は、日本の文化・社会・行政・業界などの特殊性と関係しています。
日本の特殊性の集約形が日本のピルであるとの観点から、
日本のピルについて論じます。
旧版の評論も収録しています。




















ガラパゴス島のピル

 ガラパゴス島の始まり

アメリカFDAが治療薬としてEnovidを認可したのは、1957年でした。
1960年5月11日にEnovidは経口避妊薬(ピル)としての認可を得ます。
これと前後して、各国は経口避妊薬を認可しました。
この時、ピルは治療薬と避妊薬の2つの効能を持つ薬でした。
ピルによる避妊がほぼ世界一斉にスタートしたのです。
しかし、日本はこの世界の潮流に追随することをしませんでした。
当時の日本に、ピルという避妊手段は必要なかったのでしょうか。
1960(昭和35)年の中絶数は現在より3倍以上多い106万件余りでした。
出生100に対する対出生比は66.2で、全妊娠の約40%が中絶される状況でした。
ちなみに、当時のアメリカでは、全妊娠の約5%が中絶という結果になっていました。
日本は確実な避妊法が最も必要な国だったにもかかわらず、
かえって確実な避妊法に背を向けてしまいます。
なぜ日本はピルに背を向けたのでしょうか。
この問題に対する解答はディアナ・ノーグレンによって提出されました。
その結論は中絶がいち早く合法化された日本では中絶ビジネスが成立しており、
中絶ビジネスの障害となるピルは導入されなかったというものです。
(『中絶と避妊の政治学 ――戦後日本のリプロダクション政策――』)
彼女の所論には抵抗感のある人もいるでしょう。
しかし、彼女以上に説得力のある説明は存在しません。
副作用を心配して慎重な態度を取ったなどというのは後講釈に過ぎません。
ちなみに、原著はAbortion Before Birth Control: The Politics of Reproduction in Postwar Japan, Princeton University Press, 2001です。
政治過程を丹念に分析したのは彼女の功績ですが、
日本では中絶が避妊の代替手段となっているという認識は、
欧米で広く共有されていました※。



※たとえば、1996年のDjerassiの論稿にも、50年前の中絶公認政策のために「中絶ではなくピル」('The Pill Yes! Abortion No!' )が受け入れられなかったとの観点が示されている。ノーグレンの「避妊(ピル)に先行した中絶(Abortion Before Birth Control)」のタイトルと共通した観点を見て取れる。

 もっともらしい理由付けの遺弊

少なくとも20年間、日本の医学界はピルの導入に反対ないし消極的でした。
これは紛れもない事実です。
その間、ピルは中絶ビジネスの妨げになるから反対と公言した人はいません。
医学上、健康上の観点からピルは好ましくないという反対論でした。
このような反対論は一般人の考えつくものではありません。
一部の医師がピル反対の言説の根源であったことは否定できないでしょう。
医師の言説は大きな影響力を持ちます。
宗教団体、家族計画団体、助産婦会、女性・フェミニスト団体まで、
その影響を受けていきます。
こうしてピルは怖いという「共通認識」が作られました。
医師を根源とする圧倒的に優位な言説の前に、
個々の女性は発言する勇気のかけらさえなくしていきます。
全妊娠の40%が中絶されていたのですから、
中絶の経験は実に多くの女性が持ちました。
彼女たちは身体に傷を受け、心に傷を受けていました。
しかし現に傷を受けつつも、
なおピルの「害」の方が中絶の傷よりも大きいとの呪縛の中にありました。
彼女たちは中絶の傷を個人的問題として自身で引き受けてしまい、
声を上げることはできませんでした。
現在、一般人のピルに対する偏見を嘆く医師は少なくありません。
しかし、それはかつてのもっともらしい理由付けの遺弊であることを認識すべきでしょう。

 ガラパゴス島で失われた思想

半世紀前、日本はピル鎖国を始めます。
その時、日本で失われた思想は「中絶かピルか」という問題設定です。
欧米のピルの普及を支えたのは、まさに「中絶かピルか('The Pill Yes! Abortion No!' )」という思想でした。
中絶により女性が受ける体と心の傷を最も深刻に受け止めたのは医師でした。
医師が先頭に立って、
「中絶かピルか('The Pill Yes! Abortion No!' )」
と啓発したのでピルは普及したのです。
一方、日本はその正反対だったのです。
「中絶かピルか」という問題設定がない時代、
それがピル鎖国の40年でした。
この40年のほぼ中間の時期に「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合」(略称中ピ連)という団体が出現します。
中ピ連の歴史的評価について、ここでは言及しません。
中ピ連について指摘しておきたいことは、
「中絶かピルか」という問題設定になっていないという点です。
ある意味で中ピ連もガラパゴス島に生まれた生物でした。
「中絶かピルか」という問題設定は、
ピルが解禁された1999年以後可能になったといってよいでしょう。
では、ピル解禁後の日本で医師が「中絶かピルか」という問題設定に立ち戻ったかと言えば、
必ずしもそうではありません。
中絶の問題とピルはリンクされていないのが普通です。
例外的に少数の医師だけが中絶の問題とピルをリンクする問題意識を強く持っていました。
青森の蓮尾豊医師や東京の助川雄太医師などです。
彼らは望まない妊娠を防ぐという問題意識で、
ピルの普及に取り組みました。
彼らの病院は普及率や処方数で特異的な病院になっていきました。
医師がガラパゴス島から脱することができるか否かが、
ピルの普及に決定的に重要なことを示唆しています。


 ガラパゴス島におけるピルの進化

ピルが生まれたときに、ピルは治療薬兼避妊薬であったと書きました。
その後、世界では避妊単独効能の薬として進化していきます。
避妊単独効能の薬として進化する過程で生み出されるのが、
健康上の恩恵(副効果)という概念です。
副効果という概念は他の薬剤には見られないピルだけの特殊な概念です。
これはピルが避妊単独効能の薬になる過程で生まれました。
避妊は治療ではありませんので生殖年齢にある女性なら誰にでも処方できます。
そうであるならば、わざわざ治療薬の効能は必要ないことになります。
現在、一部で副効能を副効能としてラベル表記する例が見られますが、
日本を除く世界のピルは中用量ピルも含めて全て避妊単独効能の薬です。
ピルが避妊単独効能の薬であったことはピルの普及を促進し、
婦人疾患(例えば子宮内膜症)の進行を遅らせるなど女性に多大な恩恵をもたらしました。
世界のピルがこのような進化を遂げる中で、
ガラパゴス島日本のピルは全く異なる進化をとげます。
避妊という効能を持たなかった日本のピルは、
効能羅列主義がとられました。
その結果、月経移動などという奇妙な「効能」まで記載されることになります。
この点については昭和のピル物語参照


 ガラパゴス島に先祖帰り

1999年に解禁されたピルは、避妊単独効能の薬でした。
やっと40年遅れで世界と結ばれました。
しかし、別稿で考察するようにそれは外圧をかわすための名ばかり解禁でした。
避妊薬としてピルが高い避妊効果を発揮できない服用法まで考案されました。
名ばかり解禁とはいえ、ピルの利用が増えることを恐れた人々は悪知恵をめぐらします。
それがピルの治療薬化です。
ピルに再び効能羅列主義を持ち込み、
ガラパゴス島に先祖返りさせようとするものでした。
ルナベルやヤーズの認可は避妊効能を持たないピル、
ガラパゴス島のピルの再現でした。
世界共通のピルをガラパゴス島のピルに変えるために、
破格の薬価設定が行われています。
一部の人々は莫大な利益を手にすることができました。
それは国民の健康保険金負担でまかなわれます。
40年間にわたってガラパゴス島に棲息してきた人々は、
この先祖帰りをいぶからないようです。

 ガラパゴス島に橋を架ける

望まない妊娠と中絶。
それはガラパゴス島日本で半世紀以上の年月繰り返されています。
それは大したことではないのでしょうか?
その重みをどうとらえるかがガラパゴス島と世界を断絶させてきました。
それは大したことでないのなら、
ピルの副作用は問題にされるべきです。
それは大したことでないのなら、
性感染症の問題の方が重大です。
それは大したことでないのなら、
ピルの子宮癌を予防する効果が強調されてよいでしょう。
それを大したことでないと考えてきたのがガラパゴス島で、
現在もガラパゴス島は続いています。
当サイトはガラパゴス島の住人から白い目で見られているかもしれません。
しかし、ガラパゴス島の中で泣いている女性がいることは事実です。
そして、それはいつあなたに降りかかるかもしれないことです。
女性が泣く島は決してパラダイスではありません。
ガラパゴス島では、セックスレスの問題も深刻です。
妊娠の恐怖が漂うこの島でセックスレス化が進行したのは、
当然のこととも言えます。
当サイトは誰になんと言われようともガラパゴス島に橋を架け、
ガラパゴス島を世界に通じる島にしたいと考えています。

rurikoのつぶやき
@ピルでは性感染症は防げません。性感染症の予防にはコンドームを使用しましょう。
Aコンドームでは中絶は減らせません。確実な避妊のためにはピルを使用しましょう。
なぜ目にするのは@ばかりなのだろう・・・?

   



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